明日5月23日、第十回文学フリマにお越しください!

 このたび諸行無常の会」さまのご好意でわれらが山陰大学しりとり研究会の『TETSUYA』を5月23日(日)に行われる第十回文学フリマにて委託販売させていただくこととなりました! 明日でございます。どうぞ、いらっしゃいませ。
 文学フリマ会場は東京都大田区大田区産業プラザPiOでございます。最寄駅は京浜急行電鉄蒲田駅でして、駅の北にあります。
 「諸行無常の会」さまの販売ブースはE-17でございます。「諸行無常の会」さまは今回「生きる」「カクテル」「都市伝説」の三つのテーマに沿って書いた短編小説集を出品予定とのことでございます。
 また当日はうちの川口も売り子と呼び込みを手伝わせていただく予定でございます。最寄の際はぜひ、よろしくお願いします。ちなみにワンコイン500円20部ぽっきりの販売となっております。重ね重ねではございますが、何とぞよろしくお願い申し上げます。

『TETSUYA』の目次を公開! - 山陰大学しりとり研究会
『TETSUYA』先行公開! - 山陰大学しりとり研究会
文学フリマ関連企画 - 山陰大学しりとり研究会

第十回文学フリマで委託販売!

 ご無沙汰しております、川口です。
 このたび諸行無常の会」さまのご好意でわれらが山陰大学しりとり研究会の『TETSUYA』を5月23日(日)に行われる第十回文学フリマにて委託販売させていただくこととなりました!
 本当にありがとうございます!
 「諸行無常の会」さまの販売ブースはE-17でございます。「諸行無常の会」さまは今回「生きる」「カクテル」「都市伝説」の三つのテーマに沿って書いた短編小説集を出品予定とのことでございます。
 また当日は川口も売り子と呼び込みを手伝わせていただく予定でございます。最寄の際はぜひ、よろしくお願いします。ちなみにワンコイン500円20部ぽっきりの販売となっております。ああどうか、よろしくお願いいたします。 

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我らがあわむら先生の新作発売

無限のリンケージ 3 -レディ・フェンサー- (GA文庫)

無限のリンケージ 3 -レディ・フェンサー- (GA文庫)

TETSUYAでお世話になりましたあわむら先生の新作が発売されました。
皆さん、大至急ご購入ください。
ロバートさんの夢を応援するもよし、
サクヤに萌えるもよし、いろいろ楽しんでください。

ストーリーメイク5月8日版

今回は以下の条件で作成した。

主人公過去:至誠
主人公現在:庇護
主人公未来:慈愛の逆
結末目的:治癒
援助者:解放
敵対者:清楚
キーワード:仲介者


正田:「えんぴつの約束」

○登場人物
本庄伸也(ほんじょうしんや):毛呂山第三中学校の生徒。本庄製作所の息子。
海老名哲夫(えびなてつお):父が銀行支店長だからそれなりに金のある家の子で、通っていた私立中学校がつぶれて、別の私立へ通うことができるようになるまでの間自宅に近い毛呂山第三中学校へ通う。
哲夫の父:彩花(さいか)銀行毛呂山支店長。
三郷真理子(みさとまりこ):伸也の惚れた同じクラスのかわいこちゃん。
栗橋:伸也と同じクラス。町工場従業員の息子。
上里:伸也と同じクラス。町工場従業員の息子。
狭山:伸也のクラス担任。
横瀬:伸也と同じクラスだったがある日突然登校してこなくなった。横瀬鉄工所の息子。


○あらすじ
 彩原(さいはら)市は大都市で、その東隣に毛呂山(もろやま)という都市がある。この都市は町工場がひしめいているのだが国の経済はどん底で都市全体がつぶれつつあった。
 伸也は勉強や運動で秀でているものはないが気に入られたいために明るく振る舞い男子であればだれとも普通に遊んだ。女子相手だと中学特有の距離の置き方したがクラスで一番かわいい三郷真理子のことをなんとなく気にしていた。
 伸也のクラスの授業、狭山先生が進めていくのだが哲夫は授業とは違う勉強をひたすらやっていた。狭山は「今は数学だぞ」と声をかけるが「その単元はもう終わってますから」と言って授業を無視した。栗橋が「あいつ、彩花銀行の子供らしいぞ」と上里に小声で話しかけて狭山に怒られた。クラスの大半が町工場関係者の家族を持っていて、彩花銀行に借金をしていない町工場がないくらいで、貸し渋り貸しはがしがかなり多くなってきて、銀行に対する怒りがいたるところで聞かれるようになっていたところへ哲夫が転校してきたのは半年前のことだった。哲夫がだれとも遊んだりしないためどこのどいつなのかうわさが立っていたが、彩花銀行毛呂山支店長の息子だった。クラスのほとんどが内心で哲夫に生活苦の恨みを抱いた。
 哲夫は父からもらった太宰府天満宮のえんぴつを使って勉強をした。頭はだいぶよくて私立の中学校にいたがその学校がつぶれてしかたなく伸也たちの学校に来て、別の私立へ転入することを目指して熱心に勉強していた。父が太宰府天満宮は勉強の神様だからここのえんぴつを使って必死に勉強したら必ず新しい私立へ行けるよと言って、その言葉を信じて彼はがんばった。
 伸也と同じクラスの横瀬が突然来なくなって狭山も横瀬家に連絡がつかないから心配していた。伸也が栗橋や上里と横瀬家へ行ってみると横瀬父が経営していた工場が張り紙だらけ、割られた窓ガラス、ひどい状態だった。彼らの町の厳しい現実がそこにはあった。
 翌日、給食中栗橋と上里は哲夫の給食にこっそりと毒を混入した。上里のほうが「やべえよ」とビビッて栗橋は「わかったわかった、だったら量をできるだけ減らそう」とかなり少量にした。給食の次の授業は狭山が用事あって自習となった。伸也も栗橋も上里もその他もわあわあ騒いでいた。そんな中、彼らの視線は黙々と勉強している哲夫に向いていた。栗橋と上里はほかの生徒とはちがう視線だった。そのとき哲夫は急に立ち上がり教室の外へ出ていこうとしたがうずくまって吐いた。そのあとふらふらしながらトイレへ向かった。
 上里は哲夫に天罰を与えることに成功したと悦に入って調子に乗り、哲夫の机にあるえんぴつを盗んだ。栗橋と伸也は女子に「だれかそうじしてよ」と言われて2人の間でそうじを押しつけあったが結局伸也がそうじすることになった。ぞうきんを使ってやり始めたのだが足を滑らせて顔をゲロに突っ込んでしまった。皆が伸也から離れ、栗橋は「うわあ」と言い、真理子も「やだー」と言った。彼は涙目でトイレへ逃げた。
 伸也はトイレで哲夫と会った。哲夫は汚れている伸也に事情を悟ったように同情してきて伸也は「おまえのせいだ。近づくな。話しかけるな」と怒った。
 二人ともその日は教室へ戻らなかった。哲夫は毒が少量で給食を吐く以外に体調の悪化はなかった。狭山は二人を帰宅させた。翌日、伸也は皆から避けられてしまった。哲夫は大切だったえんぴつを隠されていることに気づきかなり焦った。そこで放課後に伸也に助けを求めた。伸也は哲夫に冷たい態度をとったが「探すのを協力してくれたらお父さんに借金チャラにするよう頼んであげる」と言った。哲夫は本庄伸也が本庄製作所の息子だと知っていたのだ。伸也はそれを聞いて悩んだがクラスメイトを裏切って哲夫側に付こうと決意した。
 伸也は上里がえんぴつを隠したことに気づいていなかったが、教室中を必死で探して上里の机からえんぴつを見つけた。忘れ物を取りにきた栗橋と彼についてきた上里と出くわしてけんかになった。栗橋の「何をやってるんだ」という問いに伸也は答えなかった。二人は伸也を殴ったりしたのだが、伸也は何も話さず栗橋は「わかった、殴って悪かった。上里、えんぴつ返してやれよ」と言って上里も「ああ、伸也ならいい。僕が悪いんだから持っていけよ」と二人は根負けして伸也を見逃した。哲夫はかなり喜んで、その日の夜に家で父に頼んだのだが支店長の勝手で借金チャラにできるわけもなかった。
 哲夫は、だめだったことを伸也に話した。伸也はうなだれたものの借金がこの程度でなくなるわけもないと思って謝る哲夫を許した。伸也は教室で栗橋や上里と打ち解けることもなく1人で過ごすようになった。三日後、転入試験に合格した哲夫は学校を出ていった。


浅羽:「捨て猫拾い」

 名家の一人息子として厳しく躾けられたために、親や教師には絶対服従している少年。ある時、道端に捨てられていた仔猫を拾う。綺麗好きの少年の母はしかし、栄養状態が不良でみすぼらしい猫を見て、そんなものはとても飼えない、捨ててこいと命令する。これまでは母の言うことに従ってきた少年だが、その時ばかりは、自分が猫を拾った責任があるからと、両親に隠れて自分の部屋に猫を匿いながら、飼い主になってくれるひとはいないかとクラスのみんなに尋ねて回る。しかし誰も首を縦に振ってはくれない。失意の少年が家に帰ると、母に猫の存在がバレている。捨ててくるように命じる母。少年は、泣く泣く、元の場所に捨ててくる。毎日餌をもって様子を見にくるからね、と誓う少年。家に帰った少年は母親に「ママ、だいっきらい!」と叫んで自分の部屋にこもってしまう。翌日は土砂降りの雨。猫は大丈夫だろうか――心労から風邪をひいてしまった少年だが、病気をおして猫を迎えにいく。と、捨てたはずの場所には「猫ちゃんは拾いました。私が責任をもって飼います」と書かれた紙が。よかった……。安心した主人公は家に帰り、薬を飲んで眠りにつく。
 その様子を見て、ほっと溜息をつく母。実は昨日、息子に「だいっきらい!」と言われて自分のおしつけがましさと生命軽視を反省した彼女は、少年が捨てた猫を拾いに行ったのだった。しかし彼女が到着した時には、心ない誰かによって、猫はいじめ殺されてしまっていた。保健所に連絡をした彼女は、せめて息子が悲しまないようにと「猫ちゃんは拾いました。〜」の紙をそこに置いたのだった。

ストーリーメイク4月25日版

今回は以下の条件で作成しました

主人公過去:信頼
主人公現在:創造
主人公未来:庇護
結末目的:寛容
援助者:結合の逆
敵対者:意思の逆


正田:「永遠の婚約」

○登場人物
上尾伸二(あげおしんじ):坂戸盛花と付き合って3年、そろそろ結婚を告げようかなと考えていた矢先に坂戸盛花死亡。
坂戸盛花(さかともりか):殺された。
盛花父親:娘を失ったがどうにかこうにか自分を保っている。
盛花母親:伸二と盛花の仲を応援していた。殺害されたことでショックのあまり倒れた。
桶川(おけがわ):その場の思いつきで坂戸盛花を殺害。


○あらすじ
 今日は何度目かわからないデートで、上尾伸二は駅前の広場で坂戸盛花を待っていた。『今電車に乗ったよ。あと20分。』というメールを30分前にもらった伸二は、どうやって「結婚しよう」と言うべきか悩んでいた。指輪も用意しているし、たぶん何かよほどの間違いがなければ盛花は指輪をもらってくれるはずだった。もう一度時間を確認するとさらに20分も過ぎていた。そんなに考えこんでいたのかやべえな俺、と思っていたら広場の近くを救急車とパトカーがサイレンを鳴らしながら通過していった。彼の中で急に胸騒ぎがした。
 坂戸盛花の父親から電話で「盛花が刺されて死んだ」と知らされた伸二は何も考えられずしばらく呆然とした。もう二度と二人は会わなかった。
 盛花は電車の中で何の前触れもなく突然刺された。しかも短時間で5か所だったためにほぼ即死だった。『死因は出血多量の即死で……』とわざと残念そうに言うアナウンサーの声が上尾の耳に刺さった。桶川容疑者は盛花を刺したあと逃げることなく車内でしゃがんで真っ赤になったナイフを見つめていたという。どこから嗅ぎつけたのか坂戸家のみならず上尾家にもマスコミが現れた。「近々ご婚約しようとされていたそうで、たいへん御気の毒です。お気持ちをお聞かせください。桶川に言いたいことはありませんか」とマスコミが玄関で大声をあげていた。伸二は家を出ることができなかった。自室で頭を抱えていた。だが、彼の怒りも頂点に達した。
「僕はいいが、盛花のことをテレビでさらすのはもうやめてください」と玄関を開け放ち、カメラをいっせいに構えたマスコミに怒鳴った。その映像がその日の夕方のニュースで流れて、盛花の父親から再び電話があり、「ありがとう」とだけ告げてきた。
 マスコミの関心は被害者側から加害者側に移った。桶川という男の異常性があまりに際立っていたからだ。盛花や伸二の姿をテレビで観ることはなくなった。「だれでもよかった。ナイフはいつも持っていた。なんだか急に……」という桶川の言葉が垂れ流された。
 伸二はようやく盛花の家へ行く決心がついた。訪ねてみると父親が玄関を開けて招き入れた。
「女房も君には感謝しているんだ。でも、ちょっとなあ、あまりのことで」
 何度か会ったことがあった。『盛花ったらいつもあなたのことばかりなの。どう、そろそろ』という会話が思いだされた。そんな母親の姿は見えなかった。和室に案内された伸二は体が固まった。久々に盛花の写真を見たからだ。しかもそれは白黒の遺影だった。10分以上も遺影を見つめた。
「桶川でしたっけ、犯人のことは許す許さないじゃないです、もうどうしたって戻ってこないのですから。でも、盛花のことは絶対に忘れません。忘れられるわけがない。僕は、ずっと思い続けますよ」
「私以上に、盛花のことを。いつまでも思い続けるのは君のためにならん、あのな……」
「いいえ。忘れたら死にます」
 伸二の悲痛な思いをぶつけられて父親はふらつくような感覚に襲われた。だが、伸二の肩を強くつかんだ。
「聞いてくれ、盛花は君との結婚を考えていて生活をどうしようかいろいろしゃべっていた。君のことを絶対に幸せにしてあげると言っていた。なぜなら君が幸せにしてくれるからだそうだ。頼むから、幸せになってくれ。盛花はそう願っている。そうだ、盛花の分も幸せになってくれ。なあ、頼む」
 父親の真っ赤な目を見ることができず伸二は眼をそらした。父親も伸二もただひたすら生きるしかなかった。


川口:「ヒーリング・ワークス」

 主人公は冷たい感じの女性で、一人称の語り、あまり自分に興味がない、けど美人。
 自社ブランドで雑貨を作って委託販売やネット通販を行っている。作品だけでなく、製作者自身にもファンがついている。パステルややわらかいタッチの作品を作っているのだけれど、不意に猛然と作りたくなる作品があって、それがどうしても死を匂わせるような、とても暗いイメージの作品となっていた。彼女にはかつて信頼して一緒にブランドを切り盛りしていた恋人兼共同経営者がいたのだが、無惨な交通事故で亡くなっており、無意識のうちにそれを向きあおうとしていたのだった。しかし作風がまったく違うため、一緒に売ることができず、それ見かねた委託先で彼女のファンの店主が、変名でもうひとつブランドを立ち上げたらどうかと提案し、彼女はそれを聞き入れる。そのブランドの庇護の下、彼女は作品を作りづけることで自らを癒して、かつての死を受け入れていく。

ストーリーライト4月10日版

お題を決め、1時間の時間制限の中で掌編をでっちあげるこの企画。
今回のお題は

自転車通学

でした。できたもんをそのまま掲載してあります。誤字脱字はご愛嬌。


正田:1,858字

 私がこの自転車に乗りはじめてもうすぐ2年になる。チェーンが緩んできてたまに変な音がするようになった。そろそろ直さないといけないなと思いつつ、面倒くさかったので放置していた。女の子にチェーンなんか直させないでほしい、という言い訳を自転車にしてみた。
 毎朝、家から駅まで15分自転車をこいで、それから電車に20分揺られて学校まで通っている。けっこうな距離だ。親に塾通わされてある程度いい成績だったから街の中の学校へ入学できた。最近は親のことがうざくてしゃべらなくなった。家の中で私が親に対して発する言葉は「うん」「違う」「いや」「めんどい」などなど、どんなに長くてもひらがな4文字以内だと思う。何が何して何だみたいな文章をしゃべるのは1週間に1度くらいしかないような気がする。我ながらだめな娘になった。
 母親ときたら朝っぱらから昨日録画した韓国ドラマを観ていて、テレビが発する韓国語を背中で聞きながら朝ごはんを食べた。これがほぼ毎日なのだからたまったものではない。おかずはスーパーの惣菜で、母が惣菜のラップをはずさずに食卓に出してきて、父がそれに怒るのだが、母は「それくらい自分で取ってよ」と言い、父は黙り、私は心の中で(それくらい取れよ)と父に向かって思った。内心ため息をつきつつ家を出て、緩んだチェーンを気にしつつ、家族のくだらないやりとりを思い出しつつ、駅を目指した。明日あさっては土日だから、友達とどこか行きたいな、何か誘ってくれないかな、なんてことも思った。
ここは田舎だから、自宅から駅のある小さな町までは田園地帯が続いている。毎日風があるからつらい。学校の先生が「俺らの県は風が強くて、県外から来る人が皆愚痴をこぼすんだ」と言っていた。きっとそうなのだろう。今日もつらい。
途中で別の町から駅のある町まで続く道路に出る。すると、何人か自転車に乗って駅へ向かう人たちと出会う。あいさつはしない。お互いに全然知らないから。でも、乗る電車は同じだった。30分に1本しか来ない電車だから、乗り遅れたら遅刻する。この人たちもきっとそうだ。中にはスーツも人もいる。大人はみんな車に乗っているのに珍しい。あとで知った話だけど、銀行員は少しでもリスクを減らすために通勤で車を使わないそうだ。あの人も銀行員なのだろうか。
私はこの道路に来たらいつもこうして自転車に乗る人たちを見てしまっている。一人だけとてもかっこいい人がいるからだ。あっちのおっさんなんか風で髪がぱたぱたとはためているけれど、私の好きなかっこいい人は髪は短くて乱れない。風を嫌っているのか目を細めて自転車をこぐ姿が本当にかっこいい。いつも私服だから会社員ではないだろうし、見た目も若いからきっと大学生じゃないかなと予想している。
最近になって私は狙っていることがあった。それは、自転車のチェーンがはずれてくれることだ。そして、あの人に直してもらうのだ。本当は、あいさつをしたい。でも、私は人見知りで奥手だからそんなのは無理だ。
とにかくチェーンがはずれて直してもらえるように、私は必ず彼の前を走るようにしている。はずれたら声を出す。すぐに停めて、はずれて困ったなあをアピールする。彼が止まってくれて、心配してくれて直してあげるよと言ってくれて、名前を聞いてくれたり私も御礼をしたり、いろいろと想像が膨らんだ。
チェーンが緩くなったのが気になりはじめて10日ほど、まだはずれたことがない。はずれてくれるようにペダルを急に速くこいでみたり、無茶をやってみるけれど、まだはずれなかった。今朝もだめだった。
土日は家でごろごろした。月曜、またうんざりするような授業が始まる。カバンに教科書をつめていると、ドアをノックする音がした。ノックする前の足音はきっと父だ。ドアが開いて、やっぱり父だった。娘は不機嫌ですよをアピールするため声を低くして「何?」と言った。
「昨日、自転車借りたぞ。チェーンはずれてなあ。直したから」
「……うん」
 ということは計画が台無しになるのか。なんてことをしてくれたのだろう。持ったら重そうなカバンを見つめて、これからどうしようか考えた。そうだ、こうなったら勇気を出そう。たまには、私だってやることはやるんだ。これはこれできっといいきっかけになるはずだ。
友達に、毎日顔を見るけど知らない男の人にはどうやって声をかけたらいいだろう、と相談してみることにした。その相談で、なんだか新しい時代が到来するくらい私は変われるような気がした。


浅羽:1,394痔

 神之木の空に長らくわだかまっていた雲は、すべて雨に変わった。
 久しぶりに顔をのぞかせた太陽が、わずかばかり残っていた春の気配を五月と一緒にお払い箱にしてしまうと、空気には夏が匂いはじめた。
 風景は鮮やかな色彩と確かな輪郭を取りもどし、盆地の底に位置する人口四万六千の田舎町は、酷暑に喘ぎはじめるまでのわずかのあいだだけ、過ごしやすい時期を迎えた。
 高々と氾がる青空。白い腹を見せて遊弋する雲。水田では、まだ背丈の低い苗の緑が、涼やかな風に吹かれて揺れていた。いくら無感動なぼくだって、本当なら、自転車を降りて空を仰ぎ、二度とはやってこない高校二年生のこの季節を噛みしめていたに違いない。
 しかし、実際のところは、荷台に、久世湊を乗せ、必死にペダルを漕いでいた。湊――ぼくの隣の家に住む幼馴染の右足の脛には、白い包帯がぐるぐると巻いてあった。体育の授業中、大はしゃぎしたあげくに、派手に転んで、擦りむいてしまったのだそうだ。
「誤解がないように言っておくけどな」ぼくは、背中にしがみつくようにしている湊に聞こえるように、少し声を張って言った。「送迎するのはこれっきりだぞ。ぼくはお前の専属運転手でも運送会社の人間でもないんだからな」
「えー」不満げな声。「これからも毎日送り迎えしてくれるなら、おっぱい今以上にぐいぐい押しつけてあげるんだけどな」
「生憎だが、お前のEカップとぼくの送り迎えじゃ値段が違いすぎるよ。こっちの財布に返す釣り銭がない。言っただろ、先月バイト先が倒産したって。今じゃ、エロ本を買う時だって、中身じゃなく値段で決めてるような有様だ」
「だからこそ、ほれほれほれ」ぼくの体にまわされた湊の腕にくいと力がこめられる。汗で湿ったワイシャツ越しに伝わってくるぬくもり。柔らかな感触。弾力。「このEカップは無料サービスだよん。足が治るまで送り迎えしてくれるなら、それが毎日行き帰り二回楽しめるんだよん」
「足が治るまでって、そもそも、そんなにひどい怪我じゃないだろうが。昼休みに購買で人ごみかき分けて焼きそばパン買ってたの、こっちはしっかり見てるんだからな」
「あー」湊は言った。「それはあれだよ。脛の擦りむけによる痛みっていうのは、ウンチみたいなものでね、我慢してると、波が引くことがあるわけだよ」
「大した学説だな。今度学会にでも出席して発表しろ」
 首筋から落ちた汗の滴が背中を流れる。ぼくは歯を食いしばり、ハンドルを握り直し、ペダルを漕ぐ足にいっそう力をこめていった。正直、そうでもしないと、自分の背中に感じている、この、柔らかくていい匂いのする可愛い生き物に対する平静さを完全に欠いてしまいそうだった。パンツの中におっ勃っている紫色のヘルメットを被った兵隊は、すでに青筋をたてて最敬礼をしており、少しでも気を緩めようものなら、御得意の白いゲロを吐き散らしてしまいそうだった。
「それで、どうかな、明日から送り迎えしてくれないかな?」
「でも、タダより怖いものはないって言うからな」
「それ、饅頭怖い的なアレ? おっぱい怖い的な?」
「ああ。ぼくは幼馴染のおっぱいが怖いよ」
 ぼくたちはそれから、小型の耕運機を荷台に乗せた軽トラックとすれ違った。土と錆の匂い――田舎の、夏の匂いだ。ぼくは、それを肺いっぱいに吸い込み、自転車を飛ばした。
「ねえ!」湊がぼくに言った。
「何だ!?」
「私ね、冷たいコーラが怖い!」

ストーリーメイク4月10日版

今回は以下の条件で作ってみました。

主人公(過去):治癒の逆
主人公(現在):理性の逆
主人公(未来):秩序の逆
結末・目的:知恵
援助者:調和
敵対者:意思
キーワード:オオカミ


正田:「森の罠」

○登場人物
ミリア:狼から進化したロウジンの少女。
グレッグ:猿から進化したエンジンの青年。エンジンとロウジンは犬猿の仲だがグレッグだけは少しずつ理解しあっていくべきだと主張。
ドボル:グレッグの父。


○あらすじ
 エンジンはサルから進化したが、狼から進化したヒトであるロウジンもいた。狼も社会をつくる動物だから進化できたのだろうとエンジンの間では言われているのだが同じことを狼から進化したロウジンも言っていた。ただ、エンジンとロウジンは犬猿の仲で、住む地域が異なっていた。ほとんど交流がなかった。
 一人のロウジンが飢えに我慢できず越えてはいけないといわれていた森を越えようとした。
「グレッグ、森の罠にロウジンが捕まったらしい」
「最近多いな。ロウジンの土地はかなりの不作だったようだから。逃がしてくる」
「だめだだめだ、ロウジンは連れてこい。村長のところに閉じ込めて人質にして奴らにわからせてやると皆で決意した。おまえはすぐ逃がすというが、わしらと奴らはわかりあえない。お隣さんは一人殺されてるんだぞ」
「わかりあえる。頭を使って、知恵しぼって、お互いに助け合えば。相手だって化け物でも猛獣でもないんだ」
 ドボルはグレッグに「おまえは来るな。家にいろ」と言って、ほかの村人と合流して森へ入っていった。グレッグはそれを見届けて森へ一人でこっそりと入った。罠の場所はわかっていたから先回りして、ロウジンの捕まっているであろう罠を見つけた。
「ウウウ」
「まあまあ、そう唸るな。僕は君を助けに来たんだ」
 灰色の長い髪の間からとがった耳がのぞいている、グレッグとは異なるヒトが罠に足をはさまれて動けずにいた。
「言葉わかるんだろ、知ってるんだよ。頼むから動かずにいてくれ。罠をはずすから」
 ロウジンは警戒を解こうとしなかった。
「早くしないと親父が大勢連れてくるんだぞ!」
 グレッグは静かにしないロウジンに向かって怒鳴った。ロウジンは目を丸くして耳を伏せた。つぶらな瞳と胸のふくらみで女の子だということがわかる。罠にはさまった足をグレッグに差し出した。罠をはずされて自由になったロウジンは後ずさった。
「……ミリア」
「何? すまん、もう一度言ってくれ」
 ロウジンの声が小さくて、グレッグは聞き返した。
「何度も言わせんな、ミリアだ」
 ミリアと名乗ったロウジンは草むらに姿を消した。だが、直後にドボルたちが現れた。小さな血痕以外に何もない罠を見て、ドボルたちは怒った。
「グレッグ、おまえってやつは」
「ドボルがよく言わないからグレッグがこんなことをするんだぞ」
 ほかの村人たちがグレッグを囲んで数発殴った。グレッグは村の中でロウジンと話し合おうと主張し続けていたからうとまれていたのだ。すると、草むらが大きく揺れて、ミリアが飛び出した。
「ミリア、なぜ戻った」
「ロウジンめ、まだいたのか」
 ミリアがグレッグを囲んでいたエンジンたちに襲い掛かった。ミリアの動きは速かった。ロウジンの身体能力はエンジンを上回るのだ。だが、手足の使い方はエンジンが上回るから武器で応戦しようとした。それでも、ミリアが不意をついたのでエンジンたちはけがを負わされて、グレッグも襲われてしまった。
「ミリア、僕はさっき君を助けたんだぞ」
 グレッグの声がミリアには届かなかった。ミリアはグレッグから「村人が来る」と聞いて、逃げることなく襲ってやろうと待ち伏せしていたのだった。ロウジンたちが現れて、しばらくは襲うことを迷っていたが、グレッグがひどい目に遭わされたのを見て一気に飛び出した。グレッグに助けられたことが迷いにつながっていたのだ。
「ミリア! 頼むからやめてくれ! どうしてこんなことを!」
「おまえらは私の母を殺した!」
 なんてことだ、お互いに殺しあっているのか。グレッグは絶望した。
「グレッグ、逃げよう」
 ドボルがグレッグの腕をつかもうとしたが、ミリアが割って入った。
「グレッグに近づくな!」
 ドボルは捕まっていたはずのロウジンを脅す斧を持っていた。それを振るった。牙をむいたミリアをドボルはなりふりかまわず振った斧で殴った。気付けばミリアはふらふらとして、草むらに倒れていった。
「どうしてこうなるんだよ、こうなったら絶対理解しあわせてやる」
 グレッグは痛む体に鞭打ってドボルを落ち着かせて、ミリアを草むらから起こしたグレッグは「絶対に理解しあわせる」と連呼した。「無理だ」とミリアは言って、息絶え絶えに森の向こうへ逃げていった。「逃がすな、グレッグ」と叫ぶドボルをグレッグが押し留めた。黙って逃がすことでミリアが考えなおしてくれることにグレッグは小さな期待を寄せ、ドボルをひたすら留めた。黙って、ふらふらと揺れるミリアの背中をグレッグは見送った。