ストーリーメイク4月4日版

今回は以下の条件で作ってみました。

主人公(過去):節度
主人公(現在):治癒の逆
主人公(未来):慈愛
結末・目的:解放
援助者:勇気の逆
敵対者:清楚
キーワード:身代わり


正田:「疲れたは合言葉」

○登場人物
網川あゆみ:24歳、ベストセラーを出した若き小説家、あけみとは双子
網川あけみ:24歳、海川商事営業部のOL、あゆみとは双子
大橋:海川商事、あけみの上司
横山:あゆみ担当の丸川文庫編集者


○あらすじ

「網川先生、何とぞお願いいたしますよ、締め切りまであと……」
「はいはい、書いてますから。もう少しですから」
 あゆみは自室でカタカタカタカタとキーボードを叩き続けていた。その後ろではパリッとのりの効いたシャツにしわのまったくないスーツに台風でも絶対乱れないように固めた7対3分けの男が床に正座をしていた。あゆみの背中をじっと見つめていた。
 まだ24歳で、30万部も売れるような恋愛小説を出してしまうと、まちがいなく世間から期待されるわけで、そうなると丸川文庫で有名なシチサン編集者がぴったりとついてくるようになるのだった。
 (何も部屋で監視しなくてもいいじゃん。まあ、でも、締め切りだし、今まで書いておかなかった私が悪いからしかたないか)と、黙々とディスプレイに向かって指を動かし続けるのだった。
「もう売れっ子でございますからね、そのくしゃくしゃの寝ぐせを直すくせをつけたほうがよろしいですよ。いつ取材があるかわかりませんし」
「ご忠告ありがとうございます」(うるさいな!)
     *
「網川さん、コピーが1枚多かったですよ。経費は大切に、これからは気をつけてください」
「え? 1枚ですか、すみません」
 一方、あゆみとは双子のあけみは上司の大橋からどうでもいいような小言をもらっていた。動いてもしわの寄らない濃紺スーツに控えめの化粧をしている女性課長の大橋は、あゆみが離れていくのを見届けると他の社員にも目を配っていた。社員は皆その視線に気づいて書類をひたすらめくり、ノートパソコンのディスプレイをあわてて起こした。
「網川さん」
「杉田君、ここ間違ってたよ! え? 呼びました?」食指はせっせと営業部内を動きまわるあけみに向いた。
「少々、その服は派手ではありませんか。ピンクのスーツに、膝上8センチのスカートはいかがなものかと。企画書が上がったからといってそれはよくありません」
「たびたびすみません。明日からは課長を見習います」(今着たわけじゃないし!)
 口では大橋の言うがままに従うようなことを言った。それで、今までずっとこの調子だ。
     *
「「ああ、疲れた」」
「あれ、あけみじゃん」「あれ、あゆみじゃん」
 二人とも都内だが、家は別々だ。今日は久々に赤羽の飲み屋で出くわした。
「ええと、レモンハイはどちら?」
「私」
ハイボールは?」
「私」
「そっくりだからわからんかった、ごめんね」
「「いえいえ」」
 あゆみはレモンハイ、あけみはハイボールで乾杯をして、唐揚げや煮付けで2杯、3杯と飲みすすめていった。お互いの愚痴をぶつけあった。
「あゆみはいいよ、ベストセラーでほくほくでしょ。上司に小言食らい続けて、野郎どもにペコペコしてたいへんなんだから」
「私だってつらいの! 売れるものなんてほいほい書けないんだから。お茶くみやコピーしてりゃいいだけのあけみにはわかんない」
「何それ! バカにしてんの」
「「じゃあ代わる?」」
 二人はお互いのセリフに驚いて一瞬黙った。
「「いいねえ」」
     *
 会社へ出勤したあゆみも、あゆみの自宅でディスプレイに向かったあけみも、酒の勢いでバカなことをしたと後悔した。無計画で、あまりにも無謀だった。
「網川先生、これはパワーポイントですか。突然ベン図などを入れて、新しい手法だとでもおっしゃるのですか。ところで、今日はやけに派手ですね」
 1日くらい大丈夫、適当に男女のやりとりを書いとけ、と言われたもののどうしていいのかわからず三日前に観たドラマのやりとりを文章化してみたが、通用するはずもなかった。何よりも、明日が締め切りだということをあゆみは一言も言っていなかった。キーボードに指を叩きつけた。
「網川さん、まだですか。早くしないと会議に間に合いませんよ。お茶もまだ用意できていないではありませんか。それにしても今日はやけに粗末なかっこうですね」
 コピー機くらいできるでしょ、お茶くらい入れられるでしょ、とあけみに言われたもののコピー機から出てくる書類を順番にまとめてホチキスで留める作業がこれほど難しいとは思わなかった。実は生涯一度もお茶を入れたことがないあゆみの朝一番に社員に配ったお茶は、ブブーッと噴かれたりした。
 あけみは昨日あけみが立案して作成した企画書を上げていたらしく、それを今日の会議で配布しなければならないのだが、とても手が回らなかった。
     *
「「ああ、疲れた」」
 昨夜と同じ飲み屋に、二人はいた。「「生中!」」と言って、黙って乾杯した。
「聞いたよ、あけみ。ただのお茶くみかと思ったら企画とかやってんだってね。女性課長が言ってたよ。『今日はいったいどうしたの、網川さんともあろう方が』だってさ」
「まあね。スーパーOLなんだから。会社支えてんだよ。ま、腰かけだけど。あゆみこそ、髪がっちがちの野郎が『このまま書けば直木賞だったかもしれないのにどうして変えてしまったのですか』だってさ」
「まあね、自信あるんだよね」
「「でも楽しかった」」
 またやる? いいね。お互い疲れたらまたここに来よう。そうだね。
「これからはうまく利用しあって楽しい人生を歩んでいこう」
「そして新しい人生の扉を開けていこう」
「「なんてね」」