ストーリィメイク(2月28日版)

主人公(過去):慈愛
主人公(現在):庇護〈逆〉
主人公(未来):創造
結末・目的:治癒
援助者:善良
敵対者:生命〈逆〉
キーワード:【メントス

でストーリーを作ってみまみた。


 正田「天に馳せる少年の夢」

主人公(過去):慈愛
主人公(現在):庇護〈逆〉
主人公(未来):創造
結末・目的:治癒
援助者:善良
敵対者:生命〈逆〉
キーワード:メントス


○登場人物
少年
地球の貧しい少年。やさしい家族を失って、頼るものもなく、大勢のものに裏切られ、家族以外のものもすべて失った。今日はなんとなく空港の展望台へ来てみた。

20代後半。展望台で見つけたすさんでいる少年に機会を与える。


○用語
航宙機
何光年も離れた星どうしを航行できる旅客機。
安洋星
地球から何光年も離れたどこかの恒星系の惑星で、開発途上であり、経済の伸びしろが大いにある。


○あらすじ
 長い話の一場面。今から遠い未来。巨大な空港。地球各地や遠い惑星へ向かう航空機や航宙機を眺められる展望台。入場は無料で、誰でも自由に入って、旅客機を眺めることができる場所である。
 男は、仕事を終えて自分の星へ帰ろうとした。だが、空港に来たところで衝撃的なニュースに出くわした。ターミナルの大画面で、自分の星が突如起きた恒星の暴走によって瞬く間に崩壊したというニュースを観ることとなってしまった。絶望した男はどうすればいいのかわからないまま何気なく展望台へ出てみた。
 一人の少年が柵に指をからませるようにしがみついていた。少年の服に穴がところどころ開いていた。少年の靴からは小指がちょこんとのぞいていた。男が少年の背中に声をかけた。
「少年、旅客機を見るのは楽しいか」
「全然楽しくないね。見てるだけじゃ全然乗れないんだから」
「どこかに行きたいんだな」
「少し違うな。地球にいたくないだけだ。何のいいこともない。嫌なことばっかり、嫌な奴ばっかり」
 身なりからしてかなり貧しい。
「家族は」
「いねえよ!」
「家族のことが好きだったんだな」
 少年の目に涙がたまった。きっといい家族だったのだろう。
「いろいろ聞いて悪かった。詫びの印にいいものをやろう。ちょっとここで待ってろ」
 そう言って、男がポケットからメントスを出した。
「ここはたばこがだめだからな。これでも食ってまぎらわさないと」
 男がメントスの残りを少年に渡すと、展望台から降りていった。
 少年は空腹だったから、ついついメントスをすべて食べてしまった。
少年を1時間も待たせて、戻ってきた男が少年に長方形の紙1枚を渡した。
「安洋星への航空券だ。この星ならどんな奴にも再起の機会がある。夢があるなら叶えられる」
 少年は茫然とした。地球から安洋星まで運賃は50万くらいといったところだ。そんな航空券を見ず知らずの相手に渡してしまうとは。だが、男には金ならあった。地球まで出てくるほど大きな仕事をしていたのだから。
「いらないのか」
「いる! いるよ! ……なんだか知らないが、ありがとう」
「気にするな。最後にもうひとつ聞きたい。この星へ行ったら何をする」
「家族を作る。あとは、ええと、やれることはなんでもやってやる」
「それがいい。航空券をあげてよかった」
 少年はぬぐいきれない疑問を男にぶつけた。
「どうして、僕なんかに」
「機会くらいあってもいい。だが、機会は機会だ。あとは少年しだいだぞ」
「ありがとう。そういやメントス、全部食べちゃった」
「気にするな。まだある」
 男は新しいメントスを出してきて、ひとつ口に含んだ。
 ひどいことばかりだった少年の心は今、夢で満たされた。

 津雅樹「喫茶《メントす》」

○キャラク


小野寺幸雄(おのでら・ゆきお)……32歳。かつてK大文芸部にしており、永沢浩司・香山真沙美とはそのとき出会った大親友。現在は作家。独り者。主人公。


永沢浩司(ながさわ・こうじ)……32歳(享年)。小野寺と同窓だったが、不幸な事故で死亡。


香山真沙美(かやま・まさみ)……31歳(享年)。大学卒業後、永沢と結婚した。香山は旧姓。永沢とともに事故死。




大友誠二(おおとも・せいじ)……56歳。編集者。デビュー時から小野寺を支える。


矢吹光一郎(やぶき・こういちろう)……35歳。大友のあとを継いだ編集者。小野寺いわく「ヤなヤツ」。




佐々井奈々(ささい・なな)……30歳。喫茶「メントす」のマスタ。西野由紀の従姉。背が高く長い髪を後ろ手に結んでいる。


西野由紀(にしの・ゆき)……27歳。喫茶「メントす」のたったひとりの従業員。従姉の佐々井奈々を起業時から手伝っている。店の命名は彼女による。




西野真治(にしの・しんじ)……24歳。西野由紀の弟。ごくごくたまに姉を手伝いにやってくる。


中西裕次郎(なかにし・ゆうじろう)……57歳。大学教授。喫茶「メントす」の常連客のひとり。〈時間〉について一家言持っている。


武田杏(たけだ・あんず)……24歳。父親想いの大学院生。喫茶「メントす」の常連客のひとり。劇中、温泉に出かけたようで、主人公にお土産をくれる。




○あらすじ


 国立K大学の文芸サークルで出会い、不思議とウマが合い合いな小野寺と永沢、そして香山は、やがて親友3人組となる。ときが経ち、友愛の情はやがて静かな恋情へと移ろい、小野寺は香山のことをそこはかとなく、恋い慕うようになる。が、現在の人間関係や、その内気な性格から香山に告白できずにいた。そのままときが過ぎ、よもや大学生活も終わろうかという4回生の12月。永沢の口からこう告げられる小野寺。


「おれ、この間、香山から告白されて、付き合うことになった」
「そうか、よかったな」
「だから、おまえにはちゃんと言っておこうと思って」
「なぜだ?」
「おまえ、香山のこと好きだったろう。云わずとも判る。だがこのことで、おれたちの仲をこじらせたくはないんだ。おまえと袂を分かつのもつらいし」
「そんなこと、気にすることはないさ。それより香山さんを大事にしてやってくれ。おれとしても、おまえと一緒になるなら一安心、願ったり叶ったりだよ」

 
 そうして、彼らの大学生活は終わりを迎えたのであった。


     *



 ――10年後。その後、小野寺は大学卒業3年後から、なんのツキか小説家としての生活をはじめていた。大ヒットとまではいかないが、そんなにコケもしない三文作家であった。永沢や香山(現在は結婚して夫婦となっている)とも交流を密に続けていた。


 小野寺を担当する編集者は大友という初老の男であって、デビュー当時からの付き合いであった。小野寺は彼に、返しても返しきれぬほどの恩義を感じ、慕っていた――現在の彼があるのも、大友のおかげである、と。しかし、小野寺のもとに衝撃的な電話が入る。


「大友さんが倒れた。脳溢血らしい」なんだって、そりゃ大変だ――とショック冷めやらぬ彼に追い打ちの一報。


「永沢夫妻が交通事故で亡くなった」え、え、え、なにかの冗談かいそりゃあ! となるも冗談ではなく、居眠り運転の大型トラックに、信号待ちの交差点で突っ込まれたそうである。地方ニュースにもなった。


 ふたりの葬式に出てはその死の事実に直面し、大友の見舞いに行っては面会謝絶で門前払いを喰らい、夢なら覚めよと放心状態の小野寺。新たに彼の担当となった若い編集者・矢吹――こいつがまたイヤな奴で、まったくこれっぽっちも小野寺とソリもウマも合わない。いよいよ小野寺は強烈な孤独感に苛まれ、一向に筆が進まない、食欲も何にもないほとんど廃人状態になってしまう。頼る者もない。「大友さん、なぜ倒れた! 永沢、香山さん、なぜ死んだ!おーいおいおい、よよよ」


 永沢夫妻の葬式から5日後。秋晴れさわやかなその日、どんより小野寺はふらふらと町に散歩に出かけていた。ゆくあてもなく徘徊するうち、近所の商店街へとたどり着く。やってくるのはずいぶんと久々だったが、その一角で、彼の知る限りでは新しく入ったらしい(実際にはできてしばらく経っている)小さな喫茶店を見つける。その名は「メントす」――そういえば、学生時代にそんなタイトルの阿呆な小説を、すなわち菓子の【メントス】と英語の【meant】を無理矢理こじつけて、つまり“意味せんとす”という、まったく意味のないナンセンスを書いたな、それにしてもこの店名偶然かしらん……などと思いながら店の軒をくぐる小野寺。コンパクトにシックな空間。大きな広葉植物の鉢植えがひとつあり、壁には何枚かの写真や、印象主義の絵画が飾ってある。


「いらっしゃいませ」と言うは、うら若き女性の声。見れば、黒縁めがねにボブ・ヘアの可愛らしい女性がカウンタのむこうに立ち、お好きな席へと手を向けている。窓際の席につく小野寺。ブレンド・コーヒーを注文し、待つことしばし、やってくるコーヒー。飲む。うまい! おかわりください!ぐびぐび。久しぶりに、心のつかえが取れたように感じる小野寺。


 気づくと席のそばにやってきている店員。おずおずといわく、「失礼ですが、小野寺さんではありませんか?」うなずく小野寺――はてな、誰だったかしらん。ペンネームは本名と別だし、むむむ。「やっぱり」表情が明るくなる店員。「覚えてらっしゃいませんか、K大文芸部でお世話になった西野由紀です、小野寺先輩」「え、あ、あぁ!」と、ようやく思い出す小野寺先輩。


 彼女――西野由紀は、小野寺が大学4回生の春に新入生としてサークルに入部してきたのであった。話を聞くと、どうやらこの喫茶店「メントす」のマスタは彼女の従姉で、その従姉の仕事を起業以来ずっと手伝っているのだという。しばらく会話が弾む。店名も彼女が考えたもの、というか、小野寺の在学中の作品タイトルが店名を決める段になって思い出されたらしい。「こちらにお住まいだったんですね、知らなかったなあ。またいらしてくださいね」


 自身の部屋に戻った小野寺。コーヒーもうまかったし、後輩――すっかり忘れていたが――との再会もそれなりにうれしかったし、それに西野と話してなんだか気分がポカポカしてくるような気がして、なんだか元気になった気分になり、しばらく筆が進まずしかも締め切り間近の原稿(連載モノ)に取り掛かることにする。普段よりは執筆速度はもちろん遅かったが、それでも小野寺その原稿を落とすことなく、なんとか翌々日脱稿することに成功する。


 それとなく、喫茶店「メントす」に通い始める小野寺。西野の従姉・佐々井奈々(メントすのマスタ)に出会ったり、コーヒーはうまかったり、西野と他愛もないおしゃべりをしたり、一風変わった大学教授の中西らと懇意になったり、同じく常連客の武田杏から温泉土産をもらったり、当時は意識しなかったけれど西野ってけっこう美人でかわいいよな人としても魅力的だよなとか思い始めたり、やっぱりコーヒーがうまかったりするなかで、着実に小野寺の日常に「メントす」が大きな比重を持つようになる。それに比例して、彼を苛んでいた例の孤独感も徐々に薄れてゆくように感じられ、創作意欲も執筆速度もそれに比例して回復していく。ポカポカ。


 小野寺は次第に、そのポカポカの正体が、自分が西野に対して好意あるいはそれ以上に恋情を抱いているのではないかと思い始める。机に向かっても彼女の面影ばかりが去来する今日この頃、年甲斐もなくそうかそうなのかと納得をしたりしなかったり、しかし今の日常を壊してしまうのもウンタラカンタラと学生時代とまったく同じ逡巡をする小野寺。阿呆アホウおれの阿呆。悶々としたなか適当にテレビを付けると、ちょうど衛星映画劇場(BS-2)が始まるところ。今日の放送は『生きる』――黒澤明なにそれおいしいの、と適当に観始める小野寺だったが、志村喬演じる男の最後の生き様に――微妙にズレた感じで――感動。やるぞ、おれもやるのだと一念発起。ひとまず、いまやっている仕事(連載の最終回)が済んだおりに、彼女を食事に誘い、そのときに自分の胸中も打ち明けることに決める。命短し恋せよ乙女。


 ヤなヤツ矢吹をなんとかかわしつつ、なんとか最終回を脱稿。季節も変わり、徐々に冬の訪れが垣間見えるころ、小野寺は彼女を食事へ誘おうと、高校生のような心持で喫茶店「メントす」へと歩く。が、ルンルン気分もつかの間、彼の眼に衝撃的な光景が。反対側から西野が見知らぬ男と仲むつまじい様子で歩いてくるではないか!思わず足を止め、その光景を眺める小野寺。どうやら買い物帰りのご様子、紙袋をヤマと持ち、にこやかになにごとかをお喋りしながら「メントす」の前までやってくると、ふたりはそこで別れ、彼女は店内へ入り、男は小野寺のほうへ歩いてくる。すれ違う小野寺と男。その男のほうが、器量も良けりゃ背も高い。愕然とガァンという効果音が心中響き渡る。がっくりと頭を垂れ、来た道を戻る小野寺。自室に籠城し、寝込む。


 以降は、足しげく通っていた「メントす」にも、まったく行く気になれず、脱力した日々を暮らす小野寺。どんよりと仕事を受け、おずおずと先の連載作品の書籍化について出版社と話し合いをしたりして日々が過ぎる。


「メントす」から遠ざかって2〜3週間ほど過ぎたある日、小野寺が机に向かってぽけえっと仕事をこなしていると、自室の扉にコン、コンとノックが響く。恐る恐る扉を開けると、案の定、西野由紀の姿があった。「突然すみません、いまお邪魔ですか」かといって断る理由もないので、ひとまず部屋にあがってもらう。あんまり美味しくないかもしれないけれど、とコーヒーを出す。「最近商店街のほうでも見かけないし、お店にも来られていなかったので、体調でも崩しているんじゃないかと心配だったんです」と、ほんとうに心配そうな表情で言う西野。


「いや、体調を崩したわけじゃ……ただ最近ちょっと忙しくてね」苦しい言い訳と思いつつもそう言う小野寺。「心配かけてすまない」「いえ、そんな。それならよかったです。あの、これよかったら、お見舞いです」と言って、持ってきていた紙袋を差し出す西野。中身はロールケーキ。表情はさきほどよりもほっとしたものになっている。


 そんなふうに、自身の感情を包み隠さずあらわす彼女を見ていて、自分に正直になれないことが馬鹿らしくなった小野寺は、「こんな歳にもなってあれだけれど……」と、コトの顛末と、自身の想いを西野に打ち明ける。驚いた表情で聞いている西野。


「すまない、決まった相手がいる君にこんなことを言ってしまって」と小野寺。途端に怪訝な表情になる西野。
「えっと、わたしに決まった相手? そんな人いませんけど……」
「だってこの間、仲良さそうに歩いていたじゃあないか」
「え? あ、なんだ先輩、たぶんそれはわたしの弟の真治ですよ。弟もこの辺に住んでいるので買い物を手伝ってもらっていたんです」



 呆ける小野寺。


「それに弟には彼女がいますよ」
「???」
「杏ちゃんですよ、お店によく来てくれる」
「……へえ」
「先輩もおっちょこちょいなんだから。それに、わたしがずっと好きなのは先輩だけです」


 ますます呆ける小野寺に、やさしく微笑む西野。

 

 抱いた恋情もなんとか成就し、大友の体調もかなり回復してきたらしい。寒さもだんだんと和らぐ季節になった。喫茶店「メントす」にてメモ用紙を広げて次回作のプロットを練る小野寺。「次はどんなのを書くんです?」とたずねる西野に小野寺は「まだ判らない」と肩をすくめる。しかし心中では、そのコンセプトを決めていた。次回作は急逝した親友ふたり――永沢と香山に捧ぐものにしようと。