ストーリーメイク(12月12日版)

 いよいよ神々の遊びがはじまります。今回は「焼き魚」、「旅行かばん」、「ワンピース」の3つのキーワードを使い、簡単なストーリーを作ってみました。

 川口健伍作『さかなちゃん』:

 主人公が長い旅行から帰ってきた彼女からもらったお土産は、焼魚だった。彼女の旅行カバンはとても大きく、その中身だった焼魚もとても大きなものだった。彼女はその原型たる魚が、さる南国の小さな島を牛耳っており島民の訴えを受けて、彼女がその支配を退けてきたのだという。

 翌日その魚の娘だという白いワンピースを着た少女が現れ、遺骸を少しでもわけて欲しいと申し出た。いまだに事情が飲み込めていない主人公はそれぐらいならと受けあおうとしたが、彼女は断固として断った。彼女が言うにはその娘は娘などではなく、分裂した焼魚の残滓であり、いま一度力を取り戻そうとしているのだという。しかし少女の訴えに心を動かされた主人公は彼女との勝負に勝つことができれば遺骸を渡してもいいと言ってしまう。喜ぶ少女。厳かに対決種目を告げる彼女。「料理」少女は逃げるように立ち去った。

 津雅樹作:

 夕闇が間近に迫る頃合、静かな住宅街を、大きく硬質な旅行かばんを片手に放蕩していた老人の足許を、一匹の猫が彼を追い越してゆく。興味を引かれた老人が、そっとその猫のあとを追うと、辿り着いたのはとある家屋の玄関先――そこにはひとりのワンピース姿の少女が立っていた――のであった。彼女は、駆け寄った猫のそばにしゃがみこむと、いま焼き上がったらしい香ばしいかおりを放つ焼き魚を、猫の眼前に置き、猫が頭を垂れて食べるにまかせた。
「あなたも、焼き魚を食べにきたの? この子のように」老人の姿に気がついた少女が言った。
「いや、たまたま通りかかっただけだよ」老人は、帽子を取って答えた。
「焼き魚のにおいは好き。お母さんがよく作ってくれた――そんな頃を思い出せるから」
「でも、君は食べないのだね」老人は旅行かばんを地べたに置き、その上に腰掛けた。
「焼き魚自体は嫌いなの」彼女は笑った。「ううん、魚が苦手だから。わたし、小さいときに鯛の骨を喉にひっかけたことがあって――あれは、痛かったわ」
「なるほど。それでその猫にあげているのだね」
「ええ。それに、こうしている間――この子にこうして魚をあげているときは、ひとりぼっちにならなくてすむもの」
 少女がそう言い、猫の背をゆっくりとさすってやると、猫は満足気な鳴き声をもらした。

 藤木一雄作:

 主人公とヒロインは大学生。ある日ジャンプを立ち読みしていた主人公はワンピースのないように関してある疑問を持つ。その疑問とはワンピースが海洋冒険ものな漫画であるのに、食べ物の代表として出てくるのが焼肉で、焼き魚ではないこと。その疑問を帰ってヒロインに尋ねてみることにする。尋ねられたヒロインは何も答えずにどこかへいく。次の日、ヒロインに旅行鞄と飛行機のチケットを手渡される主人公。実際に海の町を旅して焼肉が出てくるか焼き魚が出てくるかを試して来いといわれる。逆らうと何をされるかわからない怖いヒロインなので逆らわずに旅に出る主人公。しかし最初に着いた島で旅行鞄を開けるとその中に入っていたのはワンピースの単行本ばかりで旅行に必要なものが何も入っていなかった。

 浅羽優作『人魚の涙』:

○キャラクター
・伊藤理(いとうわたる):平凡な大学生。
・高垣あかね(たかがきあかね):伊藤の恋人。病で余命半年。手術のためにはお金がかかるが、父がリストラされてしまった。
・流崎姫(りゅうざきひめ):人魚。普段は中学生として暮らす。
・流崎哲郎(りゅうざきてつお):姫の父。人間。診療所の医者。服のセンスが変。
・流崎愛(りゅうざきめぐみ):姫の母。人魚。故人。故魚。
・堀田康次(ほったこうじ):釣具屋の店主。
・老人:殺し屋。無慈悲。


○ストーリー

 ケツに腫れあがったデキモノの治療に市立病院に通う伊藤。待合室で待っていると話しかけてくる入院患者高垣あかね。最初は無視していたが、やがて快活な彼女に惹かれていく。

 そして伊藤の最後の診療の日、入院生活が長く今まで海を見たことのないあかねは「一度でいいから海が見てみたい。連れて行ってほしい」とお願いしてくる。そんなことできないと断る伊藤だが、大金がかかる手術をしなければあかねの余命があとわずか半年しかないことを知ると、彼女を海に連れていくために脱走計画を練りはじめる。

 計画実行当日。廊下に出た途端に見つかってしまう二人。ダッシュ。ようやく出入口にたどり着く。と、そこへ入ってきた黒服の老人とぶつかり、互いに転倒。立ち上がった伊藤、慌てているために、自分のものと形や色がよく似ていた老人の鞄を持っていってしまう。

 実は老人は、病院に入院している元政治家を殺すためにやってきた殺し屋だった。老人は、植物状態にある政治家の部屋で殺しの道具が入っているはずの鞄を開けるが、そこに入っていたのは伊藤の着替え一式だった。依頼主に、今回は生命維持装置をとめての殺害でいいか訊ねようと携帯電話を取り出したところで、その現場を鬼看護婦長に見つかり、部屋を追い出されてしまう。任務失敗。烈火のごとく怒り狂った老人は、伊藤とあかねの追跡をはじめる。
 そんなこととはつゆ知らず、海水浴場のある渚町へむかっている二人。途中のコンビニで脂でぎとぎとのチキンを買ってもらったり、生まれて初めて炭酸飲料を飲んだり、発作を起こして死にかけたり、なけなしの小遣いで伊藤に携帯ストラップを買ってあげたりと大忙し・大喜びのあかね。路上駐車した車でどっきどきな一夜を過ごし、なんとか翌日の昼頃に目的地・渚町に到着。
 季節外れなので客はいない。ゴーストタウンみたい、と率直な感想を言うあかね。ボロいホテルの部屋に荷物を放り込んで徒歩で海へ。大海原を前に感動のあまり絶句するあかね。ワンピース姿のあかねが波打ち際で砂や海水や片方だけのビーサンや花火の燃えカスなどと戯れているあいだ、そこらへんをぶらつく伊藤。釣具屋を発見、暇潰しに釣りでもしようと思いつき、用具を貸してもらうことに。その際、店主の堀田から、ここらへんには人魚伝説があることを聞かされる。

 ナマコと遊んでいるあかねに一声かけて、離れたところで釣りをはじめる伊藤。大きな引き。渾身の力で糸を巻きとると、水中散歩をしていた美少女人魚を釣り上げてしまう。流崎姫と名乗った人魚は、焼き魚だけは勘弁してください、と眼の幅の涙を流してあうあう許しを乞う。「時代はエコです! キャッチ&リリースです!」人魚の肉を食べると不老不死になるという、堀田から聞いた話を思い出す伊藤。あかねに食べさせようと思いつく。「わかったよ、焼き魚にはしない」「ほ、本当ですか!」「代わりに丸焼きにする」そこらへんの石を組みはじめる伊藤だが、ヒレで頭をびったん叩かれて昏倒。その隙に姫に逃げられてしまう。

 十数分後、あかねに頬をぺちぺちされて目覚める伊藤。大きなたんこぶができてしまっている。通行人に医者の場所を訊き、流崎診療所の場所を教えてもらう。「流崎……?」訝しげに思いながら診療所へ行くと、さきほどの人魚が今度は人間の姿で看護婦代わりに働いているのを発見する。「あ!」「あ!」お互い見つめ合ったまま固まる伊藤と姫。

 たんこぶを治療してもらいながら、姫の父親、哲郎(「タンホイザー」という意味不明なプリントの入ったTシャツを着ている)から人魚についての説明を受ける伊藤。哲夫と亡き妻・愛の馴れ初めも、伊藤と同じ場所で哲夫が愛を文字通り釣り上げたのが原因だった。治療を終えて診療所の外に出ると、あかねと姫がすっかり友達になっている。怒る気力も失せた伊藤は、あかねに声をかけてとりあえずホテルに帰って休もうと言う。また遊ぼうね、と手を振って別れるあかねと姫。あの子とは夏に会いたかったな、と呟くあかねに伊藤はかけてあげる言葉がない。沈黙の後、「なんつって」と笑うあかねだが、その笑顔はやはりどこか寂しげ。

 伊藤が去り、誰もいなくなった診療所の待合室。色あせたTV画面。この辺り一帯に暴風・豪雨の警報が出されたというニュースが映し出されている。……

 その頃、伊藤とあかねを追っていた老人はようやくふたりの宿泊しているホテルをつきとめている。警察だと身分を偽ってふたりの部屋番号を聞き出し、サイレンサーつきの拳銃を片手にそこへむかう老人。ピッキングで鍵を開けて、部屋の中へ入ろうとするが……。

 しかし伊藤とあかねはホテルにはまっすぐ帰らず、海が見える食堂で夕食をとっていた。うまうま。降り出した大雨にずぶ濡れになりながら、薄暗がりの中ホテルに帰ると、二人の部屋に侵入しようとしている老人がいる。しかしいくらピッキング用具でがちゃがちゃやっても鍵は開かず、己の能力の衰えに地団駄を踏む老人。と、あっけにとられている伊藤たちに気づき、銃をむけてくる。逃げる伊藤とあかね。ホテルの外へ。大雨の中、走る走る走る。途中で受け取るのを忘れていた診察代のお釣りを届けに来た姫とすれ違うが、助けを乞う暇もあらばこそ、浜辺へ追いつめられてしまう。激しく押し寄せる波。
 なんだかよくわからんがいよいよこれで最後か、と覚悟する伊藤とあかね。テンパった伊藤は、銃口をむけられたまま、あかねに告白をする。が、雨風のために聞こえず。間抜け。「何? ごめんもう一回言って!」ああもうくそったれ、と顔を真っ赤にしてもう一度今度は大声で告白をする伊藤。あかねの顔も真っ赤になる。「よりにもよってこんな時に告る!?」老人の銃口が火を吹こうとしたその時、押し寄せてくる大津波。逃げようとするもあっけなくさらわれ、海底に引きずり込まれてしまう三人。そこへ飛びこんできた姫がふたりを海面までひっぱりあげて助けてくれる。
 翌日。朝。晴れ渡った空を窓に映す流崎診療所。哲郎のTシャツ(「酢昆布」というプリントが前面に入っている)とズボンを着せられた伊藤が目を覚ます。姫が人魚であることを知ったはずのあかねだが、昨日と何ら変わることなく姫と遊んでいる(あかねは「お米」というプリントが入った哲夫のシャツを着て、姫のジーンズを履いている)。その様子を見ながら、人魚が命を長らえてくれるってのはあながち嘘じゃなかったなと思う伊藤。

 その日一日たっぷりと遊び、いよいよ帰ることになるふたり。見送ってくれる流崎親子。別れが名残惜しくてえぐえぐ泣きまくる姫、「来年また遊びに来てくれますか? 今度は夏に」という問いかけをあかねにしてくる。一瞬言葉につまるあかねだが、笑顔で「もちろん」と答える。つられるように姫も笑顔を浮かべる。車に乗り込む伊藤とあかね。発進。バックミラーの中で小さくなっていく流崎親子。

 帰りの車中で会話はない。祭りの後のような虚しさ。夜明けのドライブインで、伊藤は「他にどこか行きたいところはないのか」とあかねに訊ねる。「おれがどこにだって連れていってやる」しかしあかねは、例の、どこか寂そうな笑顔で、もう行きたいところはない、むちゃくちゃをやってくれてありがとう、うれしかった、とお礼を言う。何を言っていいかわからなくなった伊藤は、車を出て自動販売機でコーヒーを買って飲みはじめるが、ぼーっとしていたおかげでそれを哲郎からもらった「酢昆布」Tシャツにこぼしてしまう。

 着替えのため、結局道中一度も使わなかった旅行かばんを開ける伊藤。なかにあったものを漁って驚愕。助手席でうたたねをしていたあかねをたたき起こしてその中身を見せる。鞄の中には拳銃やらナイフやらと一緒に、もしもの時の換金用に老人が持ち歩いていた宝石粒が詰まった小袋が。そのなかにひときわ目立つ大きな真珠。これらを売れば十分手術費用に届く。息を飲み、顔を見合わせる伊藤とあかね。あかねの顔に、今度はほんとうの笑みが浮かぶ。