今夏の貞本特集・感想

はじめまして、こちらの企画の一部をお手伝いさせていただいている津 雅樹と申します。今回ようやく新たにアニメーション作品を観る機会を得ましたので(TVアニメをほとんど見ないもので)、初めて書き込みさせていただきます。どうぞよろしく。と、いうことで今夏公開された劇場アニメーション2本の感想です。

   *


サマーウォーズ

仮想都市OZ(オズ)が人々の日常生活に深く浸透している近未来。小磯健二は天才的な数学の能力を持ちながらも内気で人付き合いが苦手な高校2年生。彼は憧れの先輩、夏希から夏休みのアルバイトを頼まれ、彼女の田舎、長野県の上田市を訪れる。そこに待っていたのは、夏希の親戚家族“陣内(じんのうち)家”の個性溢れる面々。この日は、夏希の曾祖母で一族を束ねる肝っ玉おばあちゃん、栄の90歳の誕生日を祝う集会が盛大に行われていた。その席で健二は夏希のフィアンセのフリをする、というバイトの中身を知ることに。そんな大役に困惑し振り回される健二だったが、その夜、謎の数字が書かれたケータイ・メールを受信する。理系魂を刺激され、その解読に夢中になる健二だったが、その数列こそ、世界崩壊への扉をひらく鍵なのだった……。

時をかける少女』の細田守監督作品。最近ではたんと珍しくなった劇場用オリジナルアニメーションだ。兼ねてよりファンであった山下達郎が主題歌を担当するということで足を運んだ作品であったが、思わぬ豊作で驚いた。

とにかくきれいにまとめあげられた良質な作品。電子世界OZと陣内家の現実、そして高校野球長野大会(陣内家のひとりが参加している)を映すテレビ、この3つの世界が互いに交じり合いながら物語を展開していくプロットの妙と、<大家族>独特の感じ──雰囲気と見せ方は見事。『時をかける少女』の際には文字通り〝時を止めてしまった〟あのクライマックスの演出の嫌いがあったが、今作では<タイムリミット>というギミックを設けることで、実にテンポよく物語を転がしてゆくことに成功している。サイバーパンクとして、ジュヴナイルとして、傑作と呼ぶに相応しい作品であった。

細田守がこの調子で、コンスタントに良質な映画を撮ってゆけば、ポスト宮崎駿も近いかもしれない。


詳細『サマーウォーズ
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=333497#1


   *


ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破(EVANGELION:2.0-YOU CAN (NOT) ADVANCE.-)』

第3使徒ネルフの北極施設に出現。真希波・マリ・イラストリアスの搭乗したエヴァンゲリオン仮設5号機が迎え撃つ。一方、日本では、突如として出現した第7使徒に遭遇を、エヴァンゲリオン2号機が鮮やかに殲滅、2号機の搭乗者/式波・アスカ・ラングレーが華麗に来日を果たすが……。

1995年に放映され、社会現象にまでなったSFアニメーションの新劇場版4部作の第2部。在り得たかもしれない、もうひとつの“世界”がさらに加速する。

シナリオとしては、オリジナル版での「アスカ、来日」から「男の戰い」までを描く。前作『序』から引き続く、圧倒的な画面密度で迫るアクション・シーンや、要塞都市たる第三新東京市の都市描写は圧巻であり、その世界観の増強に前作以上に寄与している。

しかし、やはり今回特筆すべきは、本作がほぼ完全に<新作>である点だろう。『序』での、オリジナル・シリーズを再構築するという姿勢は今回影を潜め、新キャラクタである真希波・マリ・イラストリアスはいわずもがな、新規にデザインし直された使徒、徐々にしかし大きく前回とはズレ始めた物語構成とその細部、そしてそれを描く新たな映像……と列挙に暇がない。何の前情報もなく鑑賞した小生には大きな驚きであった。まさに『破』というサブタイトルに相応しい、破壊による再生である。新作を撮る、という制作方式を採用したからか、前作に見られたような<総集編>的で単調な嫌いも消え、1本の映画としてもちゃんとしたまとまりを保っている。鷺巣詩郎によるスコアも新規書き下ろしであろうものも相当数見受けられ、また、凄惨なシーンにほがらかなアレンジの挿入歌(『翼をください』など)を敢えて使用する対位法的な手法も映えていた(ただ、2回というのは多すぎだろう)。

そういうわけで、前作はやはり『序』であったことを思い知らされた今作──オリジナル・シリーズから、そして『序』から確実な進化を遂げたこの新作『破』は、かなり傑作の域に達しているいって差し支えあるまい。しかし、これが『エヴァンゲリオン』であることのジレンマ──それを作り出す作り手、そしてそれを喜んで受け入れてしまう観客、或いは『エヴァ』だからこそ語りえた物語か……。はたして、これは本当に進化(ADVANCE)だったのか否か──本作の英題はメタ的な意味合いでも、実に示唆的な含みを持っているように、小生には感じられた。


詳細:『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破(EVANGELION:2.0-YOU CAN (NOT) ADVANCE.-)』
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=333212